真正品を扱うセラーに対する誤った、あるいは競合排除目的の知的財産権侵害の申し立ては、民法上の不法行為や権利濫用に該当し得ます。もっとも実務上は、感情的な反論ではなく事実確認と撤回依頼を先行させることが重要です。

真正品への誤った申し立てという問題

Amazonの知的財産権侵害の申し立て制度は、権利者を保護するための仕組みですが、真正品を扱っているセラーに対して誤って、あるいは意図的に申し立てがなされることがあります。競合セラーを出品排除する目的で、真正品と知りながら虚偽の申し立てを行うケースも実務上報告されています。特に、価格競争が激しい商品カテゴリーにおいては、同一の権利者やその関係者を名乗る者から短期間に複数の出品者へ同種の申し立てが行われるなど、パターンとして不自然な申し立てが観察されることがあります。このような申し立ては、権利者保護という制度趣旨を逸脱した濫用的な行使として、法的な検討の対象になり得ます。

不法行為(民法709条)と損害

根拠: 民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

真正品であることを知り、又は容易に知り得たにもかかわらず、あえて虚偽の知的財産権侵害の申し立てを行い、その結果セラーの出品が停止されて売上が失われた場合、申し立てを行った者に故意又は過失があれば、民法709条の不法行為が成立し、損害賠償責任を負う可能性があります。ここでいう損害には、出品停止期間中に得られなかった逸失利益のほか、対応に要した人件費や専門家費用、レビュー・評価の毀損による無形の損害が含まれ得ますが、いずれも金額の算定には具体的な資料に基づく立証が必要です。 もっとも、権利者が自らの権利を誠実に行使したにすぎない場合(結果的に判断が誤っていたとしても)には、直ちに不法行為が成立するわけではない点に留意が必要です。

信用毀損・業務妨害(刑法233条)

根拠: 刑法第233条(信用毀損及び業務妨害) 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

真正品であることを知りながら、あえてAmazonに対して偽造品である旨の虚偽の申告(偽計)を行い、セラーの業務(出品・販売)を妨害した場合には、刑法233条の信用毀損罪・業務妨害罪に該当する可能性も理論上は考えられます。 もっとも、刑事責任の追及は故意の立証等のハードルが高く、実務上はまず民事上・Amazonの制度上の対応を先行させることが現実的です。

権利濫用(民法1条3項)

根拠: 民法第1条3項 権利の濫用は、これを許さない。

形式的には商標権等の権利を有していても、その行使が権利本来の目的を逸脱し、専ら競合排除や嫌がらせを目的とするものと評価される場合には、権利濫用として、その権利行使(申し立て)自体が正当化されないと解する余地があります。権利濫用の主張は、商標権侵害が形式的に成立するように見える場面でも、事案の具体的事情次第では有効な反論となり得ます。権利濫用の該当性を判断する際は、申し立ての回数や態様、権利者と競合関係にあるかどうか、事前の警告や確認の有無など、諸般の事情が総合的に考慮されると考えられます。

実務上の対応:事実確認と撤回依頼を先行させる

不当な申し立てを受けたと考えられる場合であっても、実務上まず行うべきは、感情的な反論や相手方への直接的な非難ではなく、①自社が真正品を扱っていることの事実確認、②その証拠を整理した上での、申し立てを行った権利者への冷静な説明と撤回の依頼です。撤回の依頼と手続の詳細は「Amazon知的財産権侵害の申し立てと撤回の手続き」で解説しています。権利者が事実を確認してもなお撤回に応じない場合、又は悪質な濫用が疑われる場合に初めて、弁護士・弁理士等の専門家と連携した法的対応(不法行為に基づく損害賠償請求、権利濫用の主張等)を検討する、という順序が現実的です。権利者とのやり取りは口頭よりも書面・メール等の記録が残る方法で行い、事実確認の経過や相手方の回答内容を後から検証できるようにしておくことも、その後の対応方針を判断するうえで重要です。感情的な対応は、Amazonとのやり取りにおいても、権利者との交渉においても、かえって事態を悪化させるため避けるべきです。また、同一の権利者から複数回にわたり同様の申し立てを受けている場合には、その履歴を時系列で記録しておくことが、後に権利濫用や不法行為を主張する際の重要な証拠となります。

真正品であることの立証方法は「真正品の立証」を、商標権侵害が成立するための基本要件は「商標権侵害の成立要件」をご覧ください。Amazonから商標権侵害の申し立てを受けた場合の対応全体は「Amazon商標権侵害の申し立てへの対応ガイド」、権利者の皆さまへのご案内は「権利者・メーカーの皆さまへ」をご参照ください。なお、本記事は一般的な情報提供であり法的助言ではありません。個別事案への該当性や法的措置の要否は、弁護士等の専門家にご相談ください。

参考資料

権利者による誤った申し立てに対し、事実と論証で対応した実例は、運営者のnote『AMAZON真贋調査解体新書』の第1章・第2章に記録されています。一覧は執筆・公開資料をご覧ください。